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原発事故と原爆がもたらしたもの

原発事故と原爆がもたらしたもの

福島原発事故によって故郷を離たり、生業を失っている人は十数万人といわれている。
健康被害を心配している方や、風評被害を受けている方たちも大勢いる。
汚染水は垂れ流され、土壌除染は遅々として進まず、空間線量も高いままである。
人々の人生や生活も自然環境もずたずたにされているのである。これらの被害は、原発事故によって放出された「死の灰」によるものである。
原発事故は、超高温や暴風圧のような衝撃は伴わなかったものの、放射能という人類がコントロールできない「死の灰」をまき散らしたのである。
その被害が、いかに広範で深刻で長期にわたるかを再確認しなければならない。
私たちは、原発事故被害者が「元の生活」を取り戻すための営みをサポートする。
私たちは、原発に依存しない社会実現のために、再稼働を許さず、廃炉を求める。
私たちは、原発の輸出を認めない。
私たちは、広島・長崎の原爆被害者が、核兵器廃絶と国家補償を求めて闘ってきた成果を継承する。
私たちは、なぜかくも危険なものと同居させられているのかを学ばなければならない。
2024/08/23(Fri) 16:29  |   原発と核兵器  |   5

高濃度汚染水漏出問題と日本政府の責任

高濃度汚染水漏出問題と日本政府の責任

◆東京電力は、8月20日になって、福島第第一原発の汚染水著貯蔵タンクから放射能汚染水推定300トンが漏れ出ていたことを一転して認める発表をした。今回も発表が遅れ、事故隠しとの批判がなされている。東電の隠蔽体質は相変わらずと言わざるを得ないが、事はそれにとどまらず深刻である。
 汚染水漏出事故は発表されているだけで5回目である。しかし、未だに漏水の原因を把握できていない。のみならず漏水の規模が果たしてどのくらいであるのかも正確にはわかっていない。要するに東電側は、事態を何も把握していないし管理もできていないのである。そのことについて東電は危機感も責任も感じていないというのが信じたくないが現実である。

◆原子炉を冷却した後の高濃度のストロンチウムを含んだ汚染水に地下水が流れ込み、日々新たに400トンの汚染水が生まれている。完全な浄化装置がないために、タンクに貯めておくしかない。そのタンクの数が足りずに、急増したタンク(溶接しないボルト締めのタンク)から今回の漏出事故が起きている。この急増タンクに貯められている汚染水は8月23日現在で約22万トン余り、タンクには計測メーターがとりつけられていないので、汚染水が漏れていてもわからない。作業員が、タンク回りを目視で確認する以外に汚染水漏れをチェックできていいなかったという報道には、心底驚き、絶望的な気分にすらなる。

◆漏れた汚染水の回りの空間線量は毎時100ミリシーベルトという直ちに人命に危害を与えうる数値である。海洋汚染や地下水汚染の危険は収束の目途もたたず拡大一方の状況である。再び大地震や津波が来たときに総量33万トンと言われる高濃度放射能汚染水はどうなるのか。日々溜まっていく高濃度汚染水の当面の処理方策も決まっていないのだから、廃炉へ向けた計画など立てようがなかろう。

◆原子力規制庁は、今回の事故を当初レベル1としたが、IAEAの勧告を受けて、8月28日にレベル3(重大な異常事象)に訂正した。世界中がこの緊急事態に注目し連日トップニュースで報道しているというが、日本の中ではいたって「静」である。このギャップはいったい何なのか。

◆日本政府は、直ちに総力を挙げてこの重大な異常事象に対応すべきである。原発輸出の売り込みや、原発再稼働に血道を上げている場合ではない。東電をこれ以上好き勝手に野放しにすべきではない。直ちに東電を公正な第三者機関の管理下に置き、緊急に日本のみならず世界中の科学者の協力を得て高濃度汚染水の流出にストップをかける施策を講じなければならないし、同時に廃炉に向けた具体的なステップを明確にしなければならない。さらに東電の資産は、まず原発事故によるすべての被害者の救済に当てられるべきで、そのために強制力を持った資産分与の法的手続きがとられなければならない。これらの緊急事態に対応するために、憲法「改正」はもちろん不要である。規制庁の権限を強化し、破産法や会社更生法その他既存の法律を駆使することで十分に適切迅速な対応が可能である。
大江京子(日本民主法律家協会)
2013/09/06(Fri) 16:34  |   コラム  |   7

核兵器と原発の共通性と異質性 -核の平和利用の意味すること―

核兵器と原発の共通性と異質性 -核の平和利用の意味すること―

核兵器も原発も、核分裂エネルギーを利用する人間の営みであるということでは共通している。
核兵器はそのエネルギーを瞬時に最大限解放し、原発はそれを制御しながら利用するという違いがあるだけである。
原爆投下直後のトルーマンの声明は、核エネルギーについて「宇宙に存在する基本的力」と表現している。
核エネルギーは兵器として使用される場合には「地獄の業火」として、制御される場合には「神の火」として、人類の前に現れることになる。
今、国際社会も我が国も、核分裂エネルギーをコントロールすることは可能だとしている。
核エネルギーの「平和利用」や「民生利用」は各国の「奪いえない権利」としているのである。
本当に制御可能なのであろうか。それができていないことは、この間の現実が雄弁に物語っているではないか。
電気製造の方法は、核分裂エネルギーだけではないことは誰でも知っていることではないか。
にもかかわらず、なぜ、原発に依存しようとするのか。なぜ、「地獄の業火」による火遊びをやめようとしないのか。
核分裂エネルギーを兵器として、あるいは金儲けの道具として利用したい連中が、この世界を牛耳っているからであろう。
けれども、既に、原発に依存することをやめた国家も存在する。例えば、ドイツなどである。
2024/08/23(Fri) 16:30  |   原発と核兵器  |   6

原発情報と「特定秘密保護法」

原発情報と「特定秘密保護法」

 福島原発事故に際して、放射性物質の拡散状況に関するデータ(SPEEDI)が米国には提供されたが、国民からは隠されていたために、福島県浪江町の住民が放射線の高い方向に避難するという悲劇が起きた。政府は、原発事故に関する情報を国民のためには使おうとしなかったのである。そんな政府が「国民の安全のため」として、「特定秘密の保護に関する法律」(特定秘密保護法)を国会に上程している。
 ところで、特定秘密保護法によって、原発に関する情報は、「特定秘密」とされることはないのだろうか。この間、政府は「原発情報が秘密になることは絶対にない。」と説明してきた。ところが、10月24日に開かれた超党派議員と市民による政府交渉の場で、法案担当の内閣情報調査室参事官は、「原発関係施設の警備等に関する情報は、テロ活動防止に関する事項として特定秘密に指定されるものもありうる。」と説明したのである。そして、核物質貯蔵施設などの警備状況についても同様であるという。結局、原発の内部構造や事故の実態も秘密とされる危険性が明らかになったのである。
 そもそも、法文上、原発情報を除外する規定などないにもかかわらず、「秘密とされることは絶対ない」などと断言すること自体虚偽説明であるが、ここでは、原発情報が「特定秘密」とされうることを確認しておくことにする。
 法案によれば、防衛、外交、特定有害活動、テロ対策などに関する情報は、行政機関の長の判断で「特定秘密」とされ、国会や第三者機関の関与は予定されていないので、何が秘密とされたのかも不明ということになる。のみならず、その「秘密」を漏らした公務員も、政府情報を明らかにしようとする国会議員も、取材しようとするジャーナリストも、「犯罪者」とされる危険性に晒されるのである。
 秘密保護法などなくても、放射性物質の拡散に関するデータを隠蔽した政府が、秘密保護法を手に入れてしまえば、国民の生命や健康にかかわる情報や環境汚染にかかわる情報も、「テロ対策」などの名目で国民の目から隠されてしまうことになる。そして、それを知らせようとする人たちは、「犯罪者」とされることを恐れ、その行動を自主規制することになるであろう。
 福島県議会は、10月9日、「特定秘密の保護に関する法律案に対し慎重な対応を求める意見書」を全会一致で採択している。同意見書は、日弁連の反対の立場を援用しながら、原発の安全性に関する情報や住民の安全に関する情報が、核施設に対するテロ活動防止の観点から、「特定秘密」とされる可能性を指摘している。その上で、今、必要なことは、情報公開の徹底であり、刑罰による情報統制ではない。内部告発や取材活動を委縮させる法案は、情報隠蔽を助長し、ファシズムにつながるおそれがある、もし採択されれば、民主主義を根底からことになるとして、両院議長と内閣総理大臣に慎重な対応を求めている。
 毎日新聞は、この福島県議会の意見書について、10月26日の社説「国会は危険な本質を見よ」で、「この重い指摘を全国民で共有したい。」としている。
 私たちの姿勢と、福島県議会や毎日新聞とは、強く共鳴し合っているといえよう。
(2013.10.28記)
日本反核法律家協会事務局長 弁護士 大久保賢一
2013/10/29(火) 09:24  |   コラム  |   10

原発事故から2年4か月、避難者はいま

原発事故から2年4か月、避難者はいま

 福島第一原発の事故から2年4か月余りが経過した。まだかなりの人びとが避難をしている状態にある。避難を余儀なくされた人びとのうち、その多くが福島県内にとどまっている一方で、少なくない数の人びとが、近隣の他県や関東地方などをはじめ、全国各地に分散する形で、広域の避難をしている。これに加え、避難命令などが発令されてはいないが、放射能汚染の状況を考慮し、避難している、いわゆる自主避難の人びとがいる。
 こうした避難者の状況については、事故への社会の関心が薄れていく中で、必ずしも十分に広く伝えられることが少なくなっているのではないだろうか。仮設住宅などには、折にふれ、マスコミの目にふれることもあるが、都市部の普通の住宅に埋没している、いわゆるみなし仮設の住人については、あまり知られる機会が多くないように感じる。
 このような状況の中で、広域避難、それも都市部にいる、被災者の実情を把握しようと、東京と埼玉にいる人たちを対象に、事故から2年を機に、アンケート調査を、支援団体が実施した。筆者もその活動に参加する震災支援ネットワーク埼玉と東京災害支援ネットが行い、埼玉については、昨年に引き続いての調査であり、東京は初めてであったが、いわゆる強制避難者だけではなく、できるだけ自主避難者の声も集めようと試みた。
 まだ十分に、その結果を分析することができてはいないのだが、相変わらず避難者の多くがメンタル的に困難を抱え、家族も分断され、将来の見通しも立たず、経済的にも厳しい状況が浮かび上がってきた。損害賠償についても、東電の補償額が少ない中で、不十分であるとの認識や、不安を抱えながらも、多くが賠償請求をし、一定程度ADRも活用されている。数はまだ少ないのだが、訴訟にふみきったケースもあって、注意を引く。
 総じて被災者の状態は困難を抱えてはいるが、その中でも、個人差や多様化がみられるようにもなってきた。依然として立ち上がることにハードルが高いと感じる人がいる一方で、心理的に多大な負荷を内在させつつも、状況への適応と、そこから能動的に自らの声をあげることの重要性を意識し始めている人びとの存在が見えてきた。
 これらの事柄から、避難者についてステレオタイプで語ることが、どれだけ難しいことであるのか、また、それがどのような問題性をはらんでいるのかが明らかになるだろう。それと同時に、被災者のニーズを考えるなら、個別的で細やかな柔軟性が求められることも理解できるだろう。事故から2年を機に、事態は変化しつつある。
 なお、調査の詳細について、7月27日(土)午後1時30分より、東京・西早稲田の早稲田大学で、調査を行った両団体によるシンポジウムで報告の予定。詳細については、震災ネットワーク埼玉のホームページなどを参照。
丸山重威(日本ジャーナリスト会議)
2013/07/16(火) 11:48  |   コラム  |   1